花信風法話 「心に花をさかせよう」

永観堂法主 中西玄禮

92 山茶花(サザンカ)賛歌

   寺庭の夕静(ゆうしず)あゆみ寒けきに目にとめて見つ白き山茶花  (木下利玄)

 永観堂の紅葉は盛りを過ぎましたが、師走に入っても境内全体が紅に彩られて見事です。そんな全山紅葉の境内の中で、大玄関の前に一本だけ、 白い山茶花の花が咲いています。冬の始めから咲き続けてきた白い花が、ようやく盛りを越えてハラハラと緑の苔の上に散り敷いています。 綺麗に掃き清められた後の庭に、風もないのに三ひら四ひらの花びらの残る風情には、なんともいえない落ち着いた美しさがあります。

   掃きてすぐ又散るさざんか乙女色 (作者不詳)

 他にめぼしい花がない頃に咲くことから、この頃庭木や垣根に育てている家が方々にありますね。艶やかな緑色の葉に浮き上がって、白い花は白い花で美しく、 乙女色という淡い紅色のそれも又それなりに美しいものです。
「春に先駆けて咲くのが梅の花ならば、サザンカはその年の終わりを惜しんで咲いてくれる花かもしれない」と、作家の平岩弓枝さんが書いておられます。 八つ手の花の白は淡すぎて、小菊の黄色はもう色あせて、椿の蕾はまだ固い。花の乏しい時の山茶花は貴重です。

 山の茶の花、と書いてサザンカ。山の茶の木に似ているから、そう名付けたのだといわれています。日を追って弱まる日射しの中で、今年最後の花のように、 ひとり山茶花の花が咲いている。平岩さんは、若い頃は梅の花の方を好んだそうです。梅がほころびると春が近い。それを嬉しく思っていたけれど、 近頃はサザンカに愛着を感じるそうです。
「一年の終わりを飾る花を好きになるというのは、やはり年齢のせいかもしれない」と述べておられます。分かりますねえ。 『御宿かわせみ』など多くの著作で知られた平岩さんは、御年85歳。私より9歳年上ですが、この言葉に全面的に共感します。

 これから木枯らしが吹き、晩鐘が冷ややかに鳴る。そんな季節に向かって、健気にも咲く山茶花は、嬉しくも愛しい花です。
 「二度とない人生だから 一輪の花にも無限の愛を」
坂村真民さんの詩の一節です。私達に一瞬一瞬の命の尊さを、白い花が教えてくれているのです。

 

永観堂の散り紅葉と白い山茶花

永観堂の散り紅葉と白い山茶花


「花信風法話集」
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