今月の行事



彼岸花

彼岸花

秋のお彼岸( )

 “彼岸”とは迷いの世界であるこの世(此岸)を離れて悟りの世界(彼岸)を求めることです。その悟りの世界に到達する六つの心がけ(六波羅蜜)が示されています。

布施(ふせ)~あなたは何を与えられますか。何をえていますか。
持戒(じかい) ~ あなたはルールを守っていますか。
忍辱(にんにく) ~ あなたは我慢しなくてはならないときに我慢できますか。
精進(しょうじん) ~ あなたはいつも前向きですか。
禅定(ぜんじょう) ~ あなたは常に静かな心でいられ ますか。
智慧(ちえ) ~ あなたはいつも佛さまの智慧を戴いていますか。

 春は持戒のお話をしました。今回は三番目の忍辱についてです。
 辞書のほとんどが「種々の侮辱や苦しみを耐え忍び心を動かさないこと」と解説しています。仏教では瞋恚(しんに=怒り)を仏道修行の大きな障害と見ます。このため、他者からの迫害・侮辱あるいは災害・危難などによってもたらされる苦難に対して堪え忍んで怒らず、動揺しないことをまず説きます。しかし仏教の説く忍辱は単なる我慢・忍耐ではありません。悟りへ至るための行なのです。経典『解深密経(げじんみっきょう)』は耐忍、安忍、諦忍の3つの忍辱を挙げます。

・耐忍=耐怨害忍(たいおんがいにん)
 人が自分に種々の害を加えても、それに耐えて微塵も報復心を起さないこと。
・安忍=安受苦忍(あんじゅくにん)
 順境、逆境いずれにあっても心を乱さず、安らかに忍ぶこと。
・諦忍=諦察法忍(たいさつほうにん)
諸法実相(あらゆる事物・現象がそのまま真実の姿である)を諦(あきら)かに認識し、空を悟る智慧を得たならば、現象として現われてくるすべての「苦」を乗り越え、安心を得られること。

 仏教の説く忍辱は禅定、智慧と深く結びついていることがわかります。智慧に依拠した忍によって心を静めてこそ、行を妨げるあらゆる苦難を忍ぶことができるといいます。我々凡夫にとって最も困難な行かもしれません。
 文政11年(1828)、越後の三条を大地震が襲い、大きな被害がでました。その時、71才の良寛さんが知人に送った見舞い状があり、そこに次のような文が書かれていました。
 「うちつけに死なば死なずて永らえて かかる憂き目を見るが侘しき。しかし災難に逢う時節には災難に逢うがよく候。死ぬ時節には死ぬがよく候。是はこれ災難をのがるる妙法にて候」
 一見、何と心ない言葉をと思われるかもしれませんが、僧である良寛さんの生き方の根底に3つの忍辱があることを示す文でしょう。