みかえり法話


法話11月

豊田市小原町 四季桜 撮影:超空正道

四弘誓願(しぐせいがん)

 毎日、世界中の様々な情報が飛び込んできます。世界では、それぞれの国がそれぞれの問題を抱えつつ、自国の利益だけを主張しているようで、世界平和の理想からはどんどん遠のいているようにみえます。日本国内でも、詐欺まがいの電話やメールによる被害報道が連日続き、しかも、手口はだんだん巧妙になってきて、よほど注意していないと、本当に騙まされてしまいそうになります。
 一方で、米国プリンストン大学の真鍋淑郎(まなべ・しゅくろう)氏が今年のノーベル物理学賞に選ばれたとの報道がありました。いまから50年以上前に「二酸化炭素が増えれば地球温暖化につながる」ということを世界に先駆けて発表し、気温や水蒸気の状況といった「大気の状態」と、海流や海水温の変化などの「海洋の状態」の相互の影響を考慮したうえで今後を予測する「大気海洋結合モデル」の開発などが評価されたとのことです。日本人として誇らしい限りですが、詐欺をはたらく連中には、「少しでも、人の為になることに、頭と労力を使え」といいたいところです。しかし、聞いてすぐに正す人たちではなさそうです。かくのごとく、この娑婆世界は、掃きだめのごとく悪臭で満ちておりますが、過日尾畑春夫さんというスーパーボランティアと呼ばれている方の存在を知り、正に「泥中の白蓮華」、その放つ芳香に魅了されました。尾畑春夫さんのプロフィールをネットで調べてみました。
 「昭和14年大分県生まれ。小学校五年生の時に母を亡くし、農家に奉公に出る。中学校は四ヶ月しか通えなかったという。別府市、下関市や神戸市の魚店で修業を積み、東京で鳶(とび)と土木の会社で資金を貯めた後、昭和43年に大分で魚屋「魚春」を開業。地元の人気店だったが六十五歳の時に惜しまれながら閉店。以後世の中に恩返しをしたいと、ボランティア活動に専念する。活動資金は年金収入だけ。お礼は一切受け取らず、車中泊をしながら全国の被災地を回っている。東日本大震災の際は、南三陸で五百日にわたって活動。平成30年8月には山口県周防大島町で行方不明となった二歳児を発見し、一躍時の人となった」、とあります。
 『法句経』二九〇番に「ささやかなるたのしみを棄てて、若(も)し大いなるたのしみを得んとせば、かしこき人は、彼岸(さとり)の大楽(だいらく)をのぞみて、小さきたのしみを棄てさるべし」とあります。人間は、どうしても豊かな衣食住や名誉を望みたくなりますが、それは小さな楽しみに過ぎず、もし、もっと大きな楽しみを得たいと思うならば、小さな楽しみは捨てなさいというのです。
 小さな楽しみは「欲望」ですが、大きな楽しみを求めることは「誓願(せいがん)」といいます。仏道を求める菩薩の誓願には四つあります。
衆生無辺誓願度
 (しゅじょうむへんせいがんど)
 数かぎりない人びと(衆生)をさとりの彼岸に渡そうという誓願
煩悩無辺誓願断
 (ぼんのうむへんせいがんだん)
 量り知れなくある煩悩を滅しようという誓願
法門無尽誓願知
 (ほうもんむじんせいがんち)
 尽きることのできない仏法の深い教えを学びとろうという誓願
無上菩提誓願証
 (むじょうぼだいせいがんしょう)
 無上のさとりを成就したいという誓願
 これを「四弘誓願」といいます。尾畑春夫さんの活動は、この四弘誓願の実践そのものといえます。見返りを求めず、人々のために尽くす菩薩の姿です。ただ、「幼くして別れた母親に、背骨が折れるほどに抱きしめてもらいたい」と、涙を流してインタビューで語っておられました。尾畑さんにとって、お母さんは、観音様なのでありましょう。
 誰しもが誓願を持つことは、なかなかかなわないかもしれません。しかし、「随喜(ずいき)」といって、他人が善いことをしているのを見聞きしたとき、喜びの心を持つことはとても功徳があると仏教では説いています。仏様に喜んでいただける、自分にできることを、その都度行っていくことが大切なのであります。
(潮音寺 鬼頭研祥)


 

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